2023 | 08.23 | WED
「島」の人たちのためにはじめた自然農法

〈the campus〉から車で25分ほど、花巻市東にある産地直売所「島のやさい」。築約70年の旧・島保育園舎を改装し、2022年10月にオープンした産直です。

「島」とは、花巻市東地域の俗称のこと。昔、北上川が氾濫した時に浮島のようにこの地域だけが浮かび残っていたことから、「島」と呼ばれています。

島保育園は、もともと地域の農家が子どもを預けるために共同でつくられた保育園。ここを地域住民の有志を募って、改装したのがオーナーの押切義幸さん・富美子さん夫妻。ふたりは地域の人に安全でおいしい野菜を食べてもらいたいと、無農薬・無肥料で育てる自然農法の野菜を栽培・販売しています。

神奈川県出身の義幸さんは、妻・富美子さんの実家で花巻の老舗漬物店「押切食品」を継ぐために1996年に岩手へ移住。押切食品では、自家栽培の野菜を漬物の原材料にするため、漬物店の仕事として農業も行っていました。当時、先代から教わった農業は農薬や肥料を使用する方法でしたが、ふとしたきっかけで自然農法に興味を持つように。

「テレビを見ていた息子が不意に『自然農法っていうのがあるんだって』と言ったんです。その時は気に留めなかったんですが、次第に気になってきて。調べてみたら、見事にその魅力にハマっていきました。当時は、会社を息子に継いで地域に何か恩返ししたいと思っていた時期。自然農法育てた野菜を地域の人に食べてもらえたら、体にもいいし、地域の人に喜んでもらえるかもしれないと野菜の栽培を始めました」

それからインターネットを使って勉強し、同時に畑で実践を始めた義幸さん。特に苦労したのは、それまで農薬や肥料を使っていた畑を自然農法に適した状態に“戻す”ことだったそう。

「土から農薬や化学肥料が抜けるまでにだいたい5〜6年かかる。急に全部の畑を切り替えるわけにはいかなかったので、少しずつ育てる作物を調整していたんですが、その過程で虫が急に増えてしまう畑もあって、すごく大変でした。今はすべての畑で無農薬・無肥料での栽培を行っています」

育てているのは、インゲン、キュウリ、トマト、瓜、ナス、かぼちゃ、大豆類、かぶ、大根、芭蕉菜など。多種類の野菜の無農薬・無肥料栽培に取り組んでいます。

「肥料を使用しない分、緑肥といって土に栄養を与える作物を計画的に植えるんです。この畑はこの野菜が終わったから緑肥のために大豆を。あそこは大豆が終わったから次は稲科の草をなんて、頭の中はパズル状態です」

大変な作業に感じることも、笑顔で楽しそうにお話してくれる義幸さん。まだまだ挑戦したいことは尽きず、今後は自然農法とその野菜の魅力についてもっと発信していきたいと語ります。

「もともと地域へ恩返しがしたいという気持ちから始めたので、身近な人たちにこそ自然農法で育てた野菜の魅力を知ってもらい、食べてもらいたいと思っています。そんな機会をどんどんつくっていきたいですね」

〈the campus〉では島のやさいから仕入れた野菜を使用して、白い家でのメニュー提供や食の体験イベントの開催を予定しています。義幸さんが手塩にかけて育てたおいしい野菜に出会える機会をつくっていきます。