2022 | 08.29 | MON
アスリートのセカンドキャリアと
地域のこれから

岩手県沢内村(現・西和賀町)出身で、クロスカントリースキーの現役選手である田中ゆかりさんの後援会が、ここ、〈the campus〉で発足しました!

6歳からクロスカントリースキーをはじめ、全日本学生大会や全日本選手権で優勝してきた田中選手。大学在学中からアスリートとしてできる地域おこしは何かを考えてきたと言います。2018年には、地元やスポーツを愛する町民の集いの場になればという想いをこめて、西和賀町で〈WEST WAKKA ATHLETE CLUB〉を立ち上げ、今も活動を続けています。

こうした地域に根付いた取り組みを行うアスリートを応援しようと、7月24日(日)に後援会の発足とともに、トークショーが開かれました。

テーマは「アスリートのセカンドキャリアと地域のこれから」。錦織圭選手も在籍していたアスリートの育成機関「IMGアカデミー」の元アジア局長で、現在は新たなスポーツ教育に取り組む田丸尚稔さん、クロスカントリースキーのオリンピアンで現在は西和賀町を拠点に家具職人として活躍する工藤博さんをゲストに迎え、田中選手の独特なキャリア形成を中心に、スポーツとビジネスの関係、地域におけるスポーツやアスリートのこれからについて語り合ってもらいました。

中学生まで西和賀で暮らし、高校・大学と北海道で過ごした田中選手は、再び地元へ帰ってきた経緯をこう振り返ります。

「大学3年生くらいで授業が落ち着いてきて、地元に戻ってくる機会が多くなりました。それまで世界中を遠征してスキーをする中で、それぞれの土地で自然と人間がお互いに壊れないような共生のあり方を見てきた影響もあって、西和賀はそれを活かしきれていないなって感じました。『もっとこうしたらいいのに』ってインスピレーションが湧いて、『西和賀にもう一回戻ってきたいな』って思ったんです」

「自分の身体や周りの自然と対話しながら没入する」というクロスカントリースキーでは、周囲の自然環境が重要な存在となるスポーツです。3年前に西和賀町へ移住してきた工藤さんは、「西和賀は日本の北欧だと思った」と話します。

「景色が北欧の田舎に似ています。オーロラが見えるような北極圏によく遠征に行ってたんですけど、道がひたすら続いていて、道の脇は林で高い山があまりなく、民家がぽつりぽつりとある。西和賀の建物が洋風だったら完璧に北欧だなって思います」

今年2月に開催された北京冬季オリンピックに向けて、直近の4年間を西和賀で過ごした田中選手も、中学時代には見えなかった地元の景色が見えてきたと話します。町内でいろんな練習場所も見つかったようです。

「地元の良さは身に染みてわかった」という現在は、競技のステップアップのため、山形県の蔵王坊平高原に拠点を置いてトレーニングを積んでいます。技術の研鑽はもちろんですが、コロナ禍の状況はアスリートとして何ができるのか自問自答する機会にもなったと話します。

「オリンピックで皆さんにいろいろなものが返せるかなって思っていましたが、もしオリンピックがなくなったら私は何で返せるのかなって考えることがありました。成績を出すことが第一ですけど、そうじゃない残し方を考えていく必要があるなと思うようになりましたね」

1人の行動を変えられるようなアスリートの存在は価値がある、と田丸さんも論を重ねます。

「プロセスの中で行われていることそのものに、結果以上の価値を誰かに与えられている可能性があって、そのあたりが今後考えていくべきアスリートの価値なのかなっていう気はしています。『SROI』(社会的投資収益率)のように、スポーツのスポンサーを考える上で、アスリートが社会的にどのようなインパクトを人々に与えているのかも重要視されてきています」

こうしたプロセスを、1人のアスリートの人生における一部と捉えると、アスリート自身の生き方や地域社会との関わり方も、ぐっと幅が広がっていく予感がします。実際、田中選手も近い感覚を持っているようです。

「セカンドキャリアみたいに区別するような思考があるから、アスリートの引退後のキャリア設計ってすごく重たい意味合いになってしまうと思います。そうじゃなくて、命を使って田中ゆかりを生きている中で、たまたまスキーと出会って、スキーをやっているっていう考え方ですね。やるべきをことしっかりやるのはもちろんですけど、ラフにいろんなことに取り組んでいきたいです」

最近では、学校の部活動を外部化しようという動きもあるようで、地域におけるアスリートの存在はますます欠かせないものになっているようです。そうした展開の中でも、田中選手のようなアスリートの価値は高まりつつあります。

キャンパスでも引き続き田中選手を応援しながら、一緒に地域をつくるプレイヤーとして切磋琢磨していくとともに、キャンパス自体もスポーツの場としてどのように地域に開いていくか、新たな可能性を考えさせられる時間となりました。

●トークショーの様子はこちらからご覧ください
https://www.instagram.com/p/CgYgfscqnVU/