2022 | 03.04 | FRI
炎のゆらぎから見える
世界の深淵

シェフやみんなのための厨房があるベースロッジ・白い家には、薪ストーブが鎮座している。豪雪地帯に位置し、冬は厳しい寒さに見舞われる〈the campus〉では欠かせないアイテムだ。どんなに外で作業したあとでも、ストーブの薪がごうごうと燃えている“我が家”ではすぐに身体が温まる。

薪ストーブはドイツ製の“IRON DOG”(アイアンドッグ)。3代にわたり鋳物ストーブをつくり続けてきたブルナー社製だ。熱工学をベースに風の道を計算し尽くした設計、そして、ボルト1本まで自社製にこだわった緻密で堅牢な造りになっている。

大きなセラミックガラス越しにゆらゆらゆれる炎を見つめていると、科学者ファラデーの『ロウソクの科学』を思い出す。1本のロウソクをもとに、なぜロウソクが燃えているのか、そこで何が起きているのかを語ったファラデーの講演をまとめた歴史的名著である。

薪とロウソクでは原料が異なるが、燃える原理は同じだ。固体である薪が熱せられて蒸気となり、その蒸気が周りの空気と化学反応を起こして光を放つ。蒸気には炭素が含まれていて、炎の熱で分解された炭素が放出し、炎の中で明るく輝いているのだ。燃えた炭素は目に見えない物質となって空気中に散っていく。

つまり、炭素があるために、美しい炎のゆらめきを眺められるということだ。

ちなみに、この炭素は生きものにも欠かせない。人間は24時間で約200gの炭素を、馬なら約2.3㎏の炭素を体内で燃やし、炭酸ガス(二酸化炭素)に形を変えているらしい。こうして炭素を燃焼させることで体温を保っているそうなのだ。“脱炭素”も重要なのかもしれないが、そもそも炭素がないと生きていけない、ということもまた事実なのだった。

薪の炎は、複雑極まりないこの世界の深淵を教えてくれる。だから私たちは今日も薪をくべる。